同人誌 より一部掲載
好き、想いは同じだから <試し読み2>
「コウちゃん、おかえり」
皇祐が仕事から帰ってくれば、敦貴が出迎えてくれる。
「敦貴、起きてたのか? もう四時になるぞ」
「うん、コウちゃんの顔見たかったの」
敦貴は愛しい思いを溢れさせながら、皇祐を抱きしめてきた。それに応えるように、皇祐も抱きしめ返す。
皇祐が仕事から帰ってくるのは、夜中になることの方が多かった。だから、ラーメン店に勤めている敦貴とは、すれ違いの生活だ。
少しでも一緒の時間を過ごしたい。その思いから、敦貴は自分の家にはほとんど帰らなくなり、皇祐の家に入り浸るようになった。
そして、こうやって皇祐が帰ってくるまで、起きて待っていたりする。
「寝ないと辛くなるだろ」
心配だった。敦貴だけが、無理しているような気がして。
「大丈夫だよ、オレ、体力だけは自信あるから」
そう言っていても、眠たそうな目をしている。皇祐は、敦貴の頬にそっと手のひらで触れた。とても温かくて、ずっと触っていたくなる。
「コウちゃん、疲れてる?」
敦貴が、頬に触れている手を握ってきた。
「疲れてるのは、敦貴の方だろ?」
「したいんだけど、ダメかな?」
答える前に、敦貴は口づけをしてきた。とろけるような甘いキス。皇祐はそう感じた。
何て変哲のない普通の口づけだ。キスなんて、いろんな男と何度もしてきた。それなのに、敦貴が相手だと、くらくらして、腰がくだけるようになる。毎回そうなる自分が、不思議で仕方がなかった。
唇を離した敦貴は、視線だけで「したい」と訴えかけてくる。皇祐も、敦貴と身体を重ねたかった。だけど、それを自ら口にすることはしない。
仕事とはいえ、さっきまで他の男の相手をしてきたのだ。敦貴としたいと言えば、ふしだらだと思われるに違いない。
皇祐は、そのことを気にしていた。
男と身体を重ねることを好んでいるわけではない。できることなら、好きな相手とだけ、関係を持ちたかった。
「我慢できないのか? 何時間もしないうちに仕事だろ」
「だって、もう一週間我慢したよー」
拗ねたように唇を尖らした。
敦貴の股間が硬くなっている。皇祐の腹に当たっていた。これを我慢しろと言う方が辛いだろう。それは、男なら誰でも理解できることだ。
「すぐ終わらせるから、ね? ダメ?」
小首を傾げる敦貴の姿は、皇祐よりも随分身体が大きいのに、可愛らしく感じる。
彼の願いを聞いてやりたかったが、時間が気になった。敦貴は何時間も寝ないうちに、仕事に行かなくてはいけない。彼に、無理をさせたくなかった。
それなら皇祐が、口と手で抜いてやれば、短い時間で済む。彼は、すぐに眠りにつくことができるだろう。
だけど、皇祐も敦貴に抱かれたかったのだ。彼を身体で感じたいと疼いている。
心の中で、ごめんと呟きながら、敦貴の唇に軽くキスをした。
「わかった。早く終わらせろよ」
「うん」
大きく頷き、敦貴はすぐさま皇祐を抱えてベッドに下ろした。衣服を脱がしながら、優しく肌に触れてくる。敦貴の触れる箇所が、熱くなっていくような感覚。下半身も、触れられていないのに、すでに熱を持っていた。
もっと触ってほしい。皇祐も、敦貴のTシャツを脱がして、肌に指を滑らせた。
引き締まったウエスト、鍛えているのか、胸にはきれいに筋肉がついている。何度見ても、ぞくぞくと興奮するように胸が躍った。
不意に、敦貴は動きを止めて、皇祐の顔をじっと見つめてきた。どうしたのかと見つめ返せば、悩ましげな表情を浮かべる。
「ねー、コウちゃん、オレとやってても、気持ち良くない?」
「……どうして?」
なぜ、今更そんなことを聞くのだろう。皇祐の方が不安になった。
うーんと唸ってから、敦貴は口を開く。
「だって、あんまり声とか出さないじゃん」
過去の女性と比べられた。そう感じた皇祐は、あまりいい気がしなくて、つい不機嫌な言い方をしてしまう。
「女性じゃないんだから、出さないよ」
「でも、ビデオでは声出してるよ」
「ビデオ?」
「この間、ゲイビ、レンタルしてきたんだー」
「そんなの見てるのか?」
男性同性愛者向けのアダルトビデオのことだ。ノンケの敦貴でも楽しめることに驚いて、声が上擦った。
皇祐と付き合うようになって、目覚めたとも考えられる。他の男性にも、興味を持つようになったのか。それはそれで、不安要素にもなる。
そんなことを考えていたのがわかったらしく、敦貴は慌てて否定してくる。
「違うよ、それでヌイたりしてないからね。オレは、いつもコウちゃんのこと想像してヌくんだもん」
わざわざ報告しなくてもいいことを口にするので、反応に困った。
「……それは、聞いていない」
「もっと、コウちゃんに気持ち良くなってもらいたいから、ビデオ見て勉強しようと思ったの」
「そんなことしなくていい」
きっぱり言い放てば、残念な表情を浮かべて、不満そうな声を上げた。
「えー」
「敦貴が気持ち良ければいいんだよ」
「オレばっかりじゃん」
「それでいいだろ?」
大好きな敦貴が満足してくれるなら、皇祐はそれ以上何も望まなかった。自分の傍に彼がいる。それは、胸が苦しくなるほど、あり難いことだった。
変わったことは何もしなくていい。だから、抱きしめられるだけで鼓動が速くなり、キスをされたら、身体中が熱くなった。彼の指がそっと触れると震えてしまい、敦貴と交われば、張り裂けそうな喜びに満ち溢れるのだ。
「じゃあさ」
敦貴は少し考えるような素振りを見せたあと、にっと歯を見せて笑う。
「今日は、オレがコウちゃんの後ろ、解してもいい?」
「自分でするからいい」
彼の希望を拒んだ皇祐は、身体を起こして、準備をしようとした。すると、肩を掴んできて、興奮した様子で詰め寄ってくる。
「だって、ビデオだと相手にしてもらってたよ。すごく気持ちいいって身悶えてた!」
「それは、ビデオだろ!」
ビデオと現実を一緒にしていることに、少し恐怖を覚えた。これ以上、夢中になったら、いろいろ試したいと言い出しそうだ。
「何か、いっつも、コウちゃんにやってもらってる感が強くてさ。オレ、全く役に立ってないじゃん……」
少し強く言い過ぎたせいか、敦貴は落ち込むように、がっくりと肩を落とし、悲しそうに目を伏せた。
こういう顔をされると、皇祐は弱いのだ。彼の思いに応えてあげたくなる。
諦めたように、皇祐が一つため息を吐いた。
「……わかったよ」
「え? オレがやってもいいの?」
顔を上げた敦貴は、ぱっと表情を明るくさせた。急に態度を変えるから、さっきのは、演技だったのではないかと疑いたくなる。
「いいよ……」
「ありがとう! コウちゃんを傷つけないようにゆっくりするからね」
弾むような声をあげて、皇祐を自分の方に引き寄せた。
背中を両手でなぞるように触れた後、下着を下ろしてくる。既に半勃ち状態のものが、目の前に露わになった。膝立ちをしていたから、下着は膝で止まっている。その格好は、少し恥ずかしく思えた。
敦貴は、楽しむように尻を撫でてくる。もみ解すように何度も何度も。
早く奥に触れて欲しい。じわりじわり疼いているのがわかった。半勃ちだったものが、次第に硬さを増していく。
敦貴が手を伸ばし、ベッドの横に常時置いてあるローションの瓶を取った。手のひらに出して広げたあと、その濡れた手で皇祐の尻を割る。そして、徐々に指を進めてきた。
「ふぅ…ン…」
ローションを塗り込むように、窄みを何度もなぞるから、腰が震えた。まるで焦らしているようだ。
「痛かったら言ってね?」
皇祐に視線を合わせてきて、優しく微笑む。彼の表情からして、その触り方は、わざとではないようだった。
指を入れやすいように、身体の力を抜く努力をした。緊張と期待で、皇祐は息を呑み込む。
敦貴の長い指が、押し入るようにゆっくりと中に入ってきた。電気が走ったように、背筋がぞくぞくする。
静かに息を吐いて、落ち着かせようとしたが、それも無駄に終わる。
「……んぁっ」
奥へと侵入した指が、内壁を擦り上げたのだ。眉間に皺を寄せて、声を漏らせば、敦貴の心配そうな声が聞こえてくる。
「ごめん、痛い?」
「いや……そのまま、続けろ」
「でも、辛そうだよ?」
深く入り込んでいた指が、引き抜かれそうになり、また声が零れてしまう。
「うぁ……」
「やめた方がいい?」
ふるふると首を振って、否定を示した。敦貴は恐々と続ける。
自分で解すのとは、わけが違う。他人にしてもらうことは、今までにも何度もあったが、嫌悪感の方が先立ってしまい、苦手だった。
それなのに、敦貴の場合は違う。彼の指が自分の中に入っているというだけで、快感で足が震え、今にも崩れ落ちそうになっていた。
「ん…ふっ……」
敦貴にしがみつきながら、出そうになる喘ぎ声を必死で堪えていた。
「だいぶ柔らかくなってきたけど……もう一本、入れてみるね」
皇祐の様子を窺いながら、丁寧に動作を行う。入れる指を増やして、中を押し広げるようにゆるやかに掻き回した。淫らな音が辺りに響く。
「はぁっ、あぁ……っ」
激しい物ではないが、次々と快楽が押し寄せてきた。もっとそれを味わいたくて、自ら腰を揺らしてしまう。
「んう、ふぁっ……」
蕩けるような感覚に、皇祐はびくびくと背を仰け反らせた。性器はすっかり勃ちあがっていて、先端から汁を垂らす。
「コウちゃん、気持ちいいの? どっち?」
敦貴の不安そうな顔が、視界に入った。この状況を見れば、どう考えても気持ちがいいとわかるはずなのに。彼は天然なのか、小悪魔なのか。
その間も、敦貴の指は皇祐の中を掻き乱す。我慢するのが辛くなっていた。このままだと、挿れられる前に果ててしまいそうだった。
「も、いい、早く、挿れろ……」
追い詰められていたが、なるべくそれを表に出さないように、言葉にした。
「……うん」
敦貴は、皇祐の言うことを素直に従い、指を静かに引き抜く。
「んんっ……」
その刺激にも、敏感に反応し、腰を震えさせた。
下着を下ろした敦貴は、もたもたと自身にコンドームをつけている。それすらも焦れったく感じた。下半身が疼いて仕方がない。早くどうにかして欲しくて、呼吸が荒くなる。
皇祐を仰向けに寝かせた敦貴は、両太ももを押し上げた。
股の間から、腹につくくらい勃ち上がっている敦貴の性器が見えた。思わず、ごくりと唾を呑み込む。
何度も受け入れているのに、あれが自分の中に入ってくると思ったら気分が高揚した。後ろの窄みが、早く欲しいとひくついているのが自分でもわかるほどだ。
そこに、敦貴の硬くなった熱いものがあてがわれた。感情を抑えられなくて、尻を振るような動きをしてしまう。
「コウちゃん、挿れるね」
そう断りを入れたあと、腰を使ってじわじわと押し入ってきた。充分に慣らしていたはずなのに、彼の大きさは、やはりきつく感じる。
「あ、はあ…、あっ……」
だらしなく口を開けたまま、シーツを握りしめ、ただひたすら苦痛に耐えていた。
「ごめん、我慢して、ね」
そう言いながらも、半分くらいまで挿れたところで、敦貴はなぜか動きを止める。
「……ど、した?」
「辛い、でしょ?」
「そのままだと、お前の方が、辛いだろ……」
「……うん、ちょっと、ね」
苦しそうに眉を顰めている。皇祐を気遣い、我慢しているのだ。その気持ちが嬉しくて、愛おしくなる。
「気にしないで、動け」
手を伸ばして、指先で頬に触れたら、驚いたような嬉しい声を上げる。
「コウちゃん!」
敦貴が皇祐の唇に、口づけを落としてきた。うっすらと開いた唇の隙間に舌を差し入れてやれば、舌を絡めさせてくる。お互いを味わうような、激しい口づけを繰り返した。
敦貴は気持ちが高ぶったらしく、勢いよく腰を押し進めてくる。
「んあっ……」
その拍子に、皇祐は軽く達してしまった。腹が濡れたことに気づき、敦貴が軽く動揺した様子を見せる。
「コウちゃん、イっちゃった……?」
「いい…から……」
火がついてしまったのだ。今更、止めることはできない。
腰を引こうとする敦貴の腕を引っ張り、皇祐が自ら腰を揺らした。呼吸を乱しながら、身体を抱きしめてくる。
そして、最初は少しずつ腰を動かしていたのに、やがて激しく腰を振り始めた。
「はぁ…うっ……」
粘り気のある濡れた音が響いていた。猛烈な圧迫感は苦しいはずなのに、快感の方が勝ってしまう。
彼は、邪魔くさそうに髪を振り乱しながら、時おり、荒げた呼吸のままキスをしてくる。流れる敦貴の汗が、ぽたぽたと皇祐の額に落ちた。それすらも、嬉しくなる。
「コウ、ちゃん、コウちゃん!」
耳元で何度も名前を呼ばれた。少し低めのやわらかな声。とても心地良くて、彼の腕の中にいる幸せは、計り知れない。彼の身体に腕を回して、愛しい名前を呼んだ。
「敦貴……」
「あ、ヤバ……、もう、イキそう……」
切羽詰った声を出した敦貴は、じっと堪えるように眉根を寄せている。
快感に襲われていた皇祐も同じで、射精感が高まっていた。先ほど軽く達したというのに、二度目の絶頂をまた迎えようとしている。
これが、仕事だったら我慢することができるのに、相手が敦貴だとコントロールができなかった。
「オレ、もう、ヤバイから……コウちゃんも」
敦貴は突然、皇祐の胸に唇を寄せて、その突起にしゃぶりついてきた。
「なっ…、うっ、あ、あぁっ……」
舌を使い、卑猥な音を立てて吸い上げてくる。
どこが一番弱いのかは、敦貴には知られていた。
胸への愛撫と同時に、腰を使って、荒々しく抜き差しを繰り返す。
「やっ…あっ……!」
波のように襲ってくる快感に堪えることができず、皇祐は欲望を勢いよく吐き出した。その瞬間、敦貴も腰の動きを緩めながら、目を瞑って、ぐったりともたれかかってくる。
「はぁ…、コウちゃん……」
彼も達したようで、呼吸を乱しながら、頬に何度も唇を吸い付かせてくる。
「あつ、き……」
触れられること、繋がっていること、全てに幸せを感じていた。
もう離れたくない。敦貴とだけ、ずっと繋がっていたい。
そう願いながら、彼の体温を感じていた。
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