同人誌 より一部掲載
好き、はじめての気持ち <試し読み5>
ファミリーレストランを出た後、皇祐の案内でホテルに向かう。近くというだけあって、歩いて五分もかからなかった。
「ここ、ラブホテルだよね?」
きらびやかなネオンで、お城のような建物が輝いている。ホワイトヴィーナスというホテル名が目に入った。
「そうだよ。敦貴も、女の子と来たことあるだろ」
「あるけど、最近来てなかったし……」
「彼女はいないのか?」
「今はいないよ」
「そっか、敦貴はモテるのにな」
学生の頃から男女問わず友人が多かった敦貴は、女性に告白されることも頻繁にあった。だが、本人はモテているという自覚はない。好きだと言われて、深く考えずに付き合い、別れると言われたら、承諾をして後を追わない。流れに身を任せているという感じだ。自分から積極的に恋人を作ったりしない。だから、冷たい人だと捉える人も中にはいた。
「ラブホテルって……男同士でも入れるんだね」
「断られるホテルもある。でも、ここは大丈夫だ」
それは、いつも使っているというような言い方だった。しかも、手慣れた様子でパネルから部屋を選び、鍵を受け取っていた。
ぼーっとパネルを眺めていれば、皇祐が寄り添うように隣に並ぶ。
「適当に選んだけど、気になる部屋でもあった?」
「そんな部屋ないよ! 早く行こう」
気恥ずかしくて、せわしなく先を急いだ。
部屋に入ってからも、じっとしてられなくて、敦貴は初めて見るかのように、きょろきょろと辺りを見渡して歩き回っていた。
清潔感ある真っ白な壁の室内の中心には、薄明るい照明に照らされた大きなベッドが存在感を放っている。
ラブホテルというだけで、性的なイメージを感じてしまうのはなぜなのだろう。敦貴は、つい首を傾げてしまう。
「緊張してるのか?」
「してねーし!」
大きな声を出していた。それは明らかに不自然で、無理していることに気づかれて、ふっと鼻で笑われる。皇祐は慣れているせいなのか、かなり余裕があった。
相手が女性なら、敦貴だって何度も経験はある。だが、男性というのは初めてのこと。何もわからないのだから、緊張しない方がおかしいだろう。
助けを求めるように皇祐を見つめれば、彼はあどけない表情で小首を傾げた。
「ん?」
「ああー、えーっと、オレ、先にシャワー浴びるね」
敦貴は取り乱しながら、バスルームに駆け込んだ。
一瞬だったが、彼の仕草が可愛くてときめきそうになった自分に驚いた。
敦貴が皇祐に初めて会った時のイメージは、『やわらかくて美味しそう』だった。小柄で色白だから、マシュマロを連想させたのだ。
皇祐は女性と間違われることもあったくらいだから、身体の大きな敦貴からすれば、小さくて可愛らしいと感じることもある。それでも、彼は男で女性とは違うことはわかっていた。
今は、ラブホテルにいるからなのか、勘違いしそうになっただけだ。
自分に言い聞かせながら、何度も深呼吸して不安定な気持ちを落ち着かせる。
「もう、オレ、何やってんだろ。どうしてこんなことになったんだっけ?」
原因は自分なのに、そんなこともすっかり忘れている。敦貴は、低い声で唸りながら苦悶に頭を抱えた。
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