アイドル天使 ユキ*ハル * 番外編 *

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  ずっと傍にいられるって信じてた <4>  

 聖二の子どもが産まれて、数か月が経っていた。念願の男の子が産まれて、聖二も喜んでいるようだった。
 倖弥と聖二の関係は、未だに恋人同士ではあったが、決して上手くいっているとは思えなかった。
 それでも、そんな風に感じているのは倖弥だけなのかもしれない。聖二と二人で会えば、いつものように「ユキだけを愛している」と言ってくれた。彼は何一つ変わらない。
 子どもが欲しかった聖二が、夢中になるのは予想していた。倖弥以外の誰かと一緒にいることも、よくあることだ。今までと同じ。何も気にすることはない。
 それなのに今回だけは、どうしても割り切ることができなかった。
 普段通りでいよう――。
 そう思えば思うほど、空回りする。
「ユキ!」
 気づけば、倖弥はスタジオのマイクの前にいた。ここに来るまでの記憶が曖昧だ。思い出そうとしても、頭の中は真っ白で思考が停止する。
 メンバーの演奏は始まっていた。それに合わせて歌わなければいけないのに、完全に上の空だった。
「何やってんだ、おまえ!」
 演奏を止めて、怒りを露わにした聖二は、倖弥の肩を掴んできた。その行為になぜか嫌悪感を抱き、彼の手を払いのけてしまう。
 聖二は、すっと表情を変え、冷めた瞳でこちらを見据える。
「言いたいことがあるなら、はっきり言え。溜められても迷惑だ」
 怖いくらいの静かな低い声だった。それでやっと我に返ったように、自分のしたことに気づく。
「ごめんなさ……」
「ユキ、今日は抜けろ」
「え……」
「やる気のない奴は必要ない」
 ばっさりと切り捨てるように聖二が言えば、トシが場を和ませるかのようにフォローに入る。
「誰だって調子悪い時はあるよ。次は大丈夫だよね、ユキちゃん」
 だが聖二は、険しい表情のまま言葉を続けた。
「今回だけじゃない。ここしばらくずっと集中してないだろ。わからないとでも思ったか?」
 聖二の言うとおりだった。反論できない。自分の愚かさに、倖弥は唇を噛んで拳を握った。
「頭冷やしてこい。ほら、始めるぞ」
 そのかけ声と共に、メンバーの演奏が始まった。
 居場所がなくて、倖弥はスタジオから出て行くしかない。最低最悪な自分が嫌になった。
「ユキちゃん、何か飲みますか?」
 優しく声をかけてきたのは、マネージャーの金井だった。小銭をじゃらじゃら鳴らしながら、自販機の前で待機している。
「ありがとう。じゃあ、コーヒーもらおうかな」
「了解です」
 金井は、倖弥の缶コーヒーのボタンを押した後、自分の分の甘酒を買っていた。
「一息つきましょう」
 満面の笑みで、缶コーヒーを渡された。本当は、そんなに飲みたくもなかったのだが、断るのも金井に悪い気がした。
 缶コーヒーを開けて口に含めば、甘ったるい味が口いっぱいに広がった。思わず顔をしかめてしまう。
 金井は、甘酒を美味しそうにごくごくと飲んだ後、愚痴るように語り始めた。
「聖二さん、もう少し優しく言ってくれるといいんですけどね。あれは、損しますよ」
「口調はきついけど、あれが聖二の優しさなんだよ」
「オレは気にしませんよ。でも、ユキちゃんは恋人なのに」
 倖弥は、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。二人が恋人同士だと知っていても、こんなにもはっきりと言う人はいないからだ。
 だけどその分、倖弥のことをどんな時も親身になって考えてくれる。仕事のことや聖二のこと、誰にも相談できないことを話せるから、すごく助かっていた。
「仕事に私情は挟んじゃいけないからね。僕は全然ダメだよ。だから、聖二も呆れたんだ……」
 金井の前で、笑顔を作ったつもりだった。それなのに、知らず知らずのうちに涙が零れ落ちて、缶コーヒーを持つ手を濡らす。
 痛感していた。聖二のことだけで、こんなにも仕事に集中できなくなるなんて思ってもみなかった。今まで、聖二が他の女性と付き合っていても、自分だけは特別なんだと強い心を持ち続けることができた。
 だけど、聖二から彼女の妊娠と結婚することを報告された時には、もう限界に近かったのかもしれない。
 毎日、彼女と子どもがいなくなることばかり願っていた。そんな自分が恐ろしくて、辛くて悲しくなる。
 倖弥は、気持ちを抑えることができなくなっていたのだ。


 

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