アイドル天使 ユキ*ハル * 番外編 *

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  ずっと傍にいられるって信じてた <3>  

 それからしばらくして、聖二は事務所の社長の娘である桃香と籍を入れた。同時に、マスコミにも聖二の結婚を発表したため、少しの間、騒ぎになった。レイル・ノワールの中でも、聖二は特に人気があったから、ファンの間でも、さぞかし荒れたようだった。
 レイル・ノワールのバンドは、ライブが中心で、その他の表舞台にはほとんど出ない。ファンからのプレゼントなども一切受け取らない主義だったので、メンバーは荒れた内容を何も知らなかった。
 それに聖二は、結婚をしただけで悪いことは何もしていない。次第にその騒ぎも沈静化していくのだった。
 倖弥と聖二の関係は、今も続いていた。
 聖二が結婚していようとも、二人はバンドのメンバーであり、恋人同士なのだ。二人だけで会い、身体を重ね、夜を共にする。
「おまえだけだ、ユキ」
 倖弥を抱きながら、聖二は何度も耳元で囁いた。今までと何ら変わりない。
 だが、そんなことも徐々に崩れ始めていく。
 二人で会っていれば、必ず仲を引き裂くように聖二の奥さん、桃香から連絡が入った。
 聖二の浮気を疑っているわけではない。
 妊娠していた彼女は、毎日体調が優れず、病院通いが続いていた。一人家にいれば、不安になることもあるだろう。その度に、聖二に連絡を入れていた。妻の彼女が夫である聖二に電話をするのは普通のことだ。それがたまたま、倖弥と会っている時に重なるというだけ。
 その日も、聖二の携帯電話が室内に鳴り響いた。
「……っん、電話……」
 聖二とのキスを止めて唇を離した倖弥だが、彼は電話に出る気はないようだ。
「放っておいていい」
 ベッドの上で裸にされ、聖二の愛撫によって、倖弥の身体は既に火照っていた。
「でも……やっ…」
 ベッドサイドに置いてあった聖二の携帯電話に手を伸ばせば、胸の突起を甘噛みされた。倖弥の腕がベッドから滑り落ちる。
「こっちに集中しろ」
 もう片方の胸の突起を指できつく摘まみ上げた。それは、まるでわざとのように。
「いっ……」
 倖弥は悲鳴に近い声を上げた。それが楽しいのか、聖二は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ユキは、痛いのが好きだよな」
 ぐりぐりと何度も同じ場所を摘まみ上げてきた。
「やぁ、…んっ……」
 首を振って否定を示したが、全く止めようとはしない。
「こっちも、こんなに硬くなっている」
 膝で股間を押し上げられ、身体がびくびくと震えてしまった。
 早くそこに触れてほしいと言わんばかりに、倖弥は股間を擦りつけるように腰を動かす。
「そんなに急かすな。こうしてほしいのか?」
「あぁっ……」
 倖弥の硬くなった中心を強引に擦りあげられる。傷みと共に快感が倖弥を襲った。
 先端からは先走りが零れ始める。その液を撫で回すように、聖二が指先で刺激し続けた。
 恋人同士と言えるような甘い時間とは少し違うのかもしれない。それでも、こうやって触れ合うことができるのは、二人でいる時だけ。いくらメンバーが二人の仲を知っているからといって、露骨なことはできない。それに、どこで誰が見ているかわからないのだ。こういうことは慎重にならないといけない。だから、聖二が電話よりも自分を優先してくれるのは、有難かった。
 だが、携帯電話は一度切れても何度もかかってきた。ずっと鳴り続ける状態に、倖弥の方が気になってしまってそれどころではなくなる。
「……聖二、まだ鳴ってる」
 全く集中できない倖弥を見兼ねてか、聖二は苛立つようにベッドから下りて電話に出た。
 倖弥は肌を隠すように、毛布に包まる。聞きたくないのに、電話の向こうから聖二の奥さんの声がした。耳を塞ぎたかったが、それではあからさますぎる。なるべく会話が耳に入らないよう、違うことを頭に思い浮かべた。
 でも、倖弥の目の前には聖二がいる。他のことを考える方が困難だ。倖弥が聞いたことのない柔らかな口調で、聖二は彼女と喋る。女性の前では、普段とは違うのだろうか。それとも、大切な奥さんだから特別なのか。
 考えないようにすればするほど、余計にそのことばかりが頭の中を駆け巡る。
 聖二が電話を切ったと同時に、二人の視線が重なった。その後に続く言葉が、倖弥にはすぐにわかった。
「悪い、ユキ」
「うん」
 急ぐように聖二は、脱ぎ捨てた服を着て、帰る準備を始めた。
 仕方がないのだ。聖二の奥さんのお腹には、子どもがいる。大事な時期だからこそ、傍にいてあげたいと思う彼の気持ちもよくわかった。
 毛布に包まったまま、倖弥は身体を小さく丸めた。もう裸でいる必要はないのに、服を着る気にはなれなかった。
「じゃあ、行くよ」
 聖二が口づけをしてきたので、身体を起こして、離れたくないというように彼の腕を掴んでしまった。すると、倖弥の腰を引き寄せ、深く口づけてくる。舌を絡め合い、貪るように互いを求めていた。毛布を自分で剥ぎ取った倖弥は、縋るように身体を寄せた。
 だが聖二は、名残惜しそうに唇を離す。
「……ごめん、聖二」
 急に倖弥は、恥ずかしくなった。聖二が足りないと欲しているのを知られたような気がして、身体中が熱くなる。顔を俯かせるしかなかった。
「また、明日な」
 聖二の手が、愛しむように倖弥の頬に触れ、唇を親指でなぞられた。痺れるような感覚に身体が震える。だが、その後すぐ、聖二は部屋を出て、奥さんの元へ行ってしまった。
 裸で一人、ベッドの上にいる自分は、すごく惨めに感じた。
 何度目だろう。こんな風に、途中で聖二がいなくなるのは。もっと傍にいたいのに、その望みは叶わない。バンドで一緒にいるのとは違う。二人の貴重な時間が奪われていた。
 こう何度も続くと、黒い感情がふつふつと沸き上がる。
 子どもなんかいなくなればいいのに。そうすれば、聖二は彼女と別れるはずだ。
 いつの間にか、そんなことばかり考えるようになっていた。


 

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