ベッドに腰を掛け、玉樹は肩を落として俯いた。
レイヤを疑うようなことをしている自分に、いい加減嫌気が差してくる。
何かが変わったのであれば、きっとレイヤがきちんと伝えてくれる。
彼は絶対に嘘をつかない。裏切らない。信じていればいい。今までそうして来たように、これからもずっと――。
考えているうちに胸が苦しくなって、泣き叫びたくなった。
そんな時、部屋の扉が開き、レイヤが戻ってきた。玉樹の姿を確認した途端、少し呆れたように言う。
「玉樹、またここで寝るつもりか?」
そして、迷いもなく隣に腰掛けてくる。
「まだ髪が濡れてる。ちゃんと乾かしてないな。また風邪ひくぞ」
くしゃっと掴むように髪に触れてきた。
いつもの優しいレイヤの声。彼からシャンプーのいい香りが漂ってきた。
「大丈夫だよ。子ども扱いしないで」
こうやって話していると、普段と変わりないように思えた。本当の兄弟のように玉樹を心配してくれるのは、普段のレイヤそのものだった。
やはり、気にし過ぎなのだろうか。
「大学は慣れたか?」
「慣れたっていうか、何だかみんなレベル低くてね……」
つまらなさそうに答えれば、レイヤは心配するように穏やかな口調で言う。
「友人は作った方がいい。玉樹はそういうのが苦手かもしれないが」
レイヤの友人という言葉で、玉樹はある人物が思い浮かんだ。
大学で出会った、笑顔が優しくて人懐こい少年。自分とは正反対で誰からも好かれそうなタイプだ。彼は『カオル』と呼ばれていた。
思い出すだけで、やたらと胸がちくちくと痛んだ。
「レイは? レイの方こそ、大学はどうなの?」
思わず、食ってかかるような言い方になった。
「どうって、もう三年目だからこれといって変わらないよ」
「でも、最近何か違うよ」
「何が違う?」
そう問われてしまうと上手く説明できないから困る。感覚でしかなかった。
「わかんない……わかんないけど、レイの様子がおかしいって感じる。何かあった?」
玉樹は、聞かないでおこうと思っていたことを我慢できずに口にしてしまった。
信じていればこんなことを口にすることはない。レイヤを信じていないと言っているようなものだった。
でも、心のもやもやはいつまで経っても晴れない。彼の口から確かな答えを聞きたかった。
レイヤは質問には答えず、前を向いてしばらく黙っていた。言い訳を探しているのか、彼の横顔からは全く表情が読めない。
沈黙が流れ、玉樹は焦った。
「ごめん……怒った?」
「怒ってないが、なぜそんな風に感じた?」
小さな溜め息を吐きながらこちらを向き、視線を合わせてきた。
その視線はいつもより冷たく、玉樹のことを探っているようにも思えた。
「……なんでだろう……」
自分でもわからないのだから、説明できるわけがなかった。それなのに、その理由を一生懸命探した。何か言わないと、気まずくなるような気がしたからだ。
隣にいる人物が、知らない人のように思えて不安になる。なぜ、こんなにも恐怖を覚えるのか。
ふと、レイヤの指が玉樹の顎に触れた。
何かと思えば、軽く持ち上げられ、唇に温かなものを感じる。
レイヤが唇を重ねてきたのだ。突然のことで玉樹は硬直した。
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