アイドル天使 ユキ*ハル * 番外編 *

モドル | モクジ

  ずっと傍にいられるって信じてた <6>  

 その日の夜、倖弥は聖二と二人で会っていた。いつものように、聖二の別宅だ。
 彼女は自宅に戻った。今頃、子どもと一緒に、聖二の帰りを待っているかもしれない。
「今日は、悪かったな」
 謝ってくる聖二に、倖弥は笑い声を立てながら上機嫌で言う。
「桃香さんも、冬真くんも、可愛かったね」
 珍しくけっこうな量のお酒を飲んでいた。身体を左右に揺らして、へらへらと笑ってしまう。
「あいつには、来るなって言ったんだけどな」
「あったかいね。家族っていいよね。聖二は、いいお父さんになれるよ」
 明るく陽気に、聖二の背中を叩いた。
「ユキ!」
 突然聖二は、倖弥を引き寄せて抱きしめてくる。
「おまえ、それ本気で言ってるのか?」
 聖二の腕の中はとても暖かい。包まれていると、すごく安心した。自分がここにいていいんだと思うことができる。
 ずっとこのまま、何も考えずに彼の傍にいられたら、どんなに幸せだろう。 
 自分の気持ちに正直になってしまえば、聖二を困らせることになる。この気持ちがある以上、これから先もきっと彼を苦しめるに違いない。そして、倖弥自身も傷つくだろう。
「聖二……」
 背に腕を回して彼をぎゅっと抱きしめ、胸に顔を埋めた。いつもの聖二の香水の匂いに安らぎを覚える。大好きな香りだ。
「どうした?」
「……僕たち、別れよう」
 その言葉は、案外すんなりと口から出てきたから、倖弥自身も驚いた。聖二は慌てるように身体を引き離し、倖弥の顔を覗き込んでくる。
「おまえ、何言ってるんだ」
「ずっと、ずっと考えてた。どうしたらいいんだろうって。答えが見つからなくて、何が正しいのか、わからなくなってた。でも、今日やっとわかった。僕たちは別れた方がいい」
「桃香のことは気にするな。あいつは気づいてない」
「それでも! 彼女に嘘をついて裏切り続けていることには変わりない。僕がダメになるんだ。このままだと、歌うことさえできなくなる……」
 優しく諭すような聖二の言葉も、今の倖弥には通じない。もう耐えられない状態まできていた。
 腕に抱いた赤ん坊の温もりと純粋に笑う彼女の笑顔が、心に沁みて痛かった。あの時、自分がどれだけ醜く酷い生き物なのかを思い知らされたのだ。
 いつもなら、言葉巧みに言いくるめようとする聖二だが、この時ばかりは倖弥の言葉を受け入れる。
「……わかった」
 それ以上、何も言わなかった。
 この関係が終われば、きっと楽になれる。そう思っていた。だけど、いざ別れを受け入れられたら、身体中から寂しさと孤独と苦しさに襲われ、涙が溢れて止まらなくなった。
 どうして、自分は女性じゃないのだろう。
 どうして、彼は自分を選んでくれなかったのだろう。
 どうして、別れを口にしてしまったのだろう。
 本当は彼の傍にいたいのに。
 泣き崩れる倖弥を、聖二は黙ったままずっと抱きしめていたのだった。



 あれから、聖二と倖弥は恋人同士ではなくなった。
 だが、レイル・ノワールのバンドのメンバーとして、二人はずっと一緒にいられる。
 倖弥は幸せだった。彼女とは、違う形で聖二の傍にいることができるのだから。
 これが永遠に続くように、心から願っていた。


END


 


このお話の続きが同人誌『アイドル天使ユキ*ハル』になります。
励みになりますweb拍手    モドル | モクジ
Copyright (c) Sept Couleurs All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-